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東京高等裁判所 昭和52年(う)2081号 判決 1977年12月26日

被告人 高野次男

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中一〇〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人松任谷健太郎の提出した控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官小野慶造の提出した答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

所論は要するに、原判決判示各窃盗の事実中第一を除く他の事実はすべてまだ犯人が判明していなかつたのに、被告人が取調に先立つて警察官に自供したもので刑法四二条一項にいわゆる自首をした場合に当り、法律上の減軽をすべきであり、そうでなくても、右の事情に加えて被告人は病弱で働くことができなかつたための犯行であり、被害品の多くが被害者に還付されていることや被告人の反省の態度に照し同法六七条、六六条により酌量減軽すべきであるのに、原判決がそのいずれをもしなかつたのは判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りか、量刑不当の誤りを犯しているものである、というのである。

そこで本件記録を調査し、当審における事実取調の結果をも参酌して検討すると、司法警察員警部補稲橋孝三郎他二名の作成した「窃盗被疑事件現場の確認捜査結果について」と題する川口署長宛報告書一八通、被告人の当公判廷における供述によれば、原判示第二以下の一八回にわたる窃盗の事実については、いずれも犯人が判明しない段階で被告人がこれを右司法警察員らに自供したものであることが認められるが、更に、右各自供をした当時、被告人は原判示第一の窃盗の事実で川口警察署員に逮捕され、引き続き勾留されて、被告人の従前の窃盗の犯歴から多数の余罪のあることを予想して埼玉県警察本部から特に派遣された前記稲橋警部補から右原判示第一の窃盗の事実および他にも窃盗を犯していないかについて取調べを受け、これに対し逐次判示第二以下の事実を自供したものであることも明白であるところ、このように自己の犯罪事実について捜査官の取調を受けている者が、その取調中、他にも犯行を犯していないかとの趣旨の問を受けて更に他の犯罪事実を自供したとしても、このような状況のもとでの供述は、自ら進んで犯罪事実を捜査官憲に申告することを意味する刑法四二条一項にいわゆる自首に該当しないものというべきであり、原判決が本件について右自首減軽の規定を適用しなかつたのは固より正当であり、また刑法六七条、六六条の酌量減軽は犯罪の具体的情状に照して法律上の科刑がその最低限をもつてしてもなお重いとする場合に考慮すべきものであり、本件についてそのような事情は全く考えられないから原判決が右法条を適用しなかつたのもまた正当であるから、原判決には所論のような法令適用の誤りはない。そして、本件は昭和五一年一〇月三〇日恐喝罪による懲役一年八月の刑の執行を受け終つた被告人が定職にも就かず、僅々一月足らずのうちに犯した原判示第六別紙犯罪一覧表(三)の一の犯行を手はじめに、前後一九回にわたり空巣盗を繰返し、盗み出した現金や盗品の一部を入質してえた金円で生活していたものであつて、被害金品の額も大きく、各被害者に対し弁償もなされていないことに加えて、被告人は右前刑のほかにも昭和三二年三月以降、窃盗、傷害、監禁、横領、常習累犯窃盗、恐喝等の罪により九回にわたり、いずれも懲役刑に処せられていることを併せ考慮すると、被告人の本件各犯行に対する刑責は重いといわなければならないから、被告人が本件逮捕を機に深く反省して過去を清算する気持になり、前示のように本件各犯行について自供したこと、被告人は病弱ではあるが将来は健実な仕事について真面目に暮す覚悟でいること等弁護人の所論指摘の諸事情を被告人のために斟酌するとしても、被告人を懲役二年六月(求刑懲役三年)に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるということはできない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、刑法二一条により当審における未決勾留日数中一〇〇日を原判決の刑に算入し、当審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項但書を適用してこれを全部被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 小松正富 千葉和郎 鈴木勝利)

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